英語長文多読(大学入試・受験英語)

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東京外大 2016 大問2 日本語訳

 発見から100年以上も経過したあとに,1個の古い指輪がバイキングとイスラム世界とのつながりに新たな光を投げかけた。

 

 9世紀のスウェーデンの墓で見つかったこの指輪には,アラビア文字のクーフィー体による文字が刻まれていた。研究者らはこれらの文字はAL_LLH,と書いてあるように見えると言い,研究者はそれを「アラー(に承認されますよう)に」という意味だと解釈する。

 『スキャニング』誌に発表された論文の中で,研究者らは,過去にスカンジナビアの考古学遺跡で発掘されたアラビア文字の刻印がある指輪は,これしかないという。

 この指輪は最初,ストックホルムから約19マイル(30km)離れたビエルケ島のビルカという町で,19世紀後半に行われた墓の掘削中に発見された。ビルカはバイキングの時代の主要な交易の中心地であり, 1993年にユネスコ世界遺産に登録された。

 この指輪はスウェーデン国立歴史博物館に所蔵されており,当初は金めっきを施した銀と紫色のアメジストでできており, Allahの刻印があると説明されていた。

 ストックホルム大学の生物物理学者,セバスチャン・ウォームランダー率いる研究グループは,エネルギー分散X線分光分析器(EDS)による走査電子顕微鏡法(SEM)を使って指輪の成分を分析したところ,指輪は実際には銀合金でできており,「アメジスト」は着色ガラスであったことがわかったと述べた。

 「石に関しては,現代では着色されたガラスは価値の低い『偽の』材料と思われるかもしれませんが,かつては必ずしもそうではなかったことを理解しなければなりません」と同チームは忠告する。「ガラスの生産はレバーント地方で約5,000年前に始まっていたにしても,バイキング時代のスカンジナビアでは,ガラスはまだ珍しい材料でした。」

 より重要なのは,研究者らは,指輪を覆っていたと想定されていた金の痕跡が全くなく,しかもやすりをかけた跡があることに気がついたことだ。

 「金属表面に金がないことに加え,このやすりの跡は明らかに指輪が金めっきを施されていたとしたかつての説明は間違っていたことを示しています。もし,表面にめっきが施され,金の屑が摩耗してなくなったのなら,やすりの跡もなくなっているはずです。しかし金属表面に摩耗はなく,当初あったやすりの跡が今でもそのまま残っていることから,この指輪はほとんど使われていなかったことになります」

 したがって,研究チームは,この指輪がアラビアの銀細工師からその女性に両者間に他の所有者をほとんど介することなく渡ったと考えている。

 墓からは,多くがアフガニスタンから輸入された硬貨も見つかっているが,これらは「総じて,確立された交易路上で多くの手から手へと渡されていったことにより,摩耗し破損していました」と研究者は言う。

 指輪の所有者は伝統的なスカンジナビア衣装をまとって発見されたが,墓の中で骨は分解されてしまっているため,研究者は女性の民族を特定するのは不可能であると語っている。

 「この女性本人が,あるいは彼女に近い誰かが,(当時はチュニジアからインド国境まで及んでいた)イスラム帝国かその周辺地域を訪れたことがあった可能性,あるいは,イスラム帝国かその周辺地域の出身であった可能性も,ないことではないのです」と彼らは話す。

 イスラム帝国とバイキングの世界との往来は,昔の文献にも記録されているが,そのような移動の物語はしばしば「巨人と竜」の話を含み,作り話か事実かを知ることを困難にしていると研究者は言う。

 「調査したビルカの指輪の重要性は,この指輪がバイキング時代のスカンジナビアイスラム世界との間の直接的な接触に関する昔話を,最も雄弁に裏づけているという点にあります。このような接触は,間に複数の商人を介した間接的な交易よりもはるかに効果的に,商品や文化,アイデア,そしてニュースの交換を促進したにちがいありません」と研究者らは結論づけている。